こんにちは。日本仮想化技術株式会社の水野です。
サーバーを運用していくためには、サーバーOSのLinuxディストリビューション特有の「お作法」を知ることが不可欠です。
本記事は、世界的に人気のあるディストリビューション「Ubuntu(ウブントゥ)」の特徴や、上手な使い方をUbuntu Japanese Teamのメンバーでもある筆者が紹介していくシリーズの第3回になります。
前回はUbuntuのパッケージと、サポートされる範囲について解説しました。
おさらいすると、LTS版のUbuntuにおける5年サポートとは、あくまでCanonical社によってメンテナンスされるmain/restrictedリポジトリのパッケージに限定した話であり、universe/multiverseリポジトリのパッケージは、コミュニティによるベストエフォートでの対応になるという話でした。
個人用途など、通常の利用であれば、これで十分だと言えるでしょう。
ですが企業などの用途によっては
「Universeのパッケージもサポート対象にならないと困る」
「5年では短いので、RHELのように10年のサポートが欲しい」
という要望もあるでしょう。
こうしたギャップを埋められるのが、Canonicalによる有償のサポートサービスである「Ubuntu Pro」です。
Ubuntu Proとは
UbuntuはOSとしての機能はすべて無償で提供され、コミュニティ版/エンタープライズ版といった区別はありません。ですが標準で提供されているサポートだけでは、エンタープライズ用途での要件を満たせない場合もあります。そこで従来より、Canonical社によって有償のサポートプランが提供されていました。
これは「Ubuntu Advantate」と呼ばれており、以下のような内容が含まれていました(過去形)。
- 多数のUbuntuサーバーを管理するツール「Landscape」
- 再起動なしにカーネルにパッチを当てる「Livepatch」
- +5年の延長サポートを提供する「Extended Security Maintenance(ESM)」
- Canonicalのナレッジベースへのアクセス
- 24時間の電話、オンライン窓口
2023年になり、このUbuntu Advantageがリブランディングされたものが「Ubuntu Pro」です。Ubuntu Proには追加で
- universe/multiverseリポジトリへのセキュリティサポート
も追加されています。
またサーバーやコンテナなど、用途によっては「10年サポートは必要だが、Universeリポジトリのサポートは不要」というケースもあるでしょう。
そういったケース向けに、main/restrictedリポジトリのみに延長サポートを提供する、「Ubuntu Pro (Infra-Only)」というサポートプランも用意されています。
Universeリポジトリが含まれない分、価格が安く設定されているため、用途によってはこちらを選択するのもよい考えです。
通常のLTSと、Ubuntu Proのサポート範囲を図にすると、以下のようになります。
詳しくはUbuntu Proのサイトを参照してください。
Ubuntu Proサブスクリプションを確認する
Ubuntu Proは、ホスト1台あたりいくらといった形態で契約する有償サポートプランです。ですがUbuntu Oneのアカウントさえあれば、最大5台までのホストで利用できる、個人向けの無料サブスクリプションが用意されています。ここでは無料サブスクリプションを用いて、Ubuntu 22.04がインストールされたマシンに、Ubuntu Proを適用する手順を紹介します。これによって、ESMによる延長セキュリティサポートや、カーネルライブパッチといった機能を無償で利用できるようになります。なおUbuntu Proを適用できるのは、UbuntuのLTSリリースのみであることに注意してください。
まずはUbuntu Oneのアカウントを用意してください。ちなみにUbuntu Oneとはもともと、Ubuntuに標準で搭載されていたオンラインストレージサービスの名前です。このストレージサービス自体は既に終了しているのですが、Ubuntu OneはUbuntu関連サイトのシングルサインオンサービスとして、引き続き利用されているのです。
このアカウントひとつで、Ubuntuについての議論が行われるDiscourseや、UbuntuのWikiも利用できるため、もしアカウントを持っていないのであれば、この機会に作っておくとよいでしょう。
Ubuntu Proのサイトにアクセスし、ページ上部にある「Your subscriptions」をクリックします。
Ubuntu Oneのログイン画面に遷移しますので、メールアドレスとパスワードを入力してログインします。
サブスクリプションの画面に遷移すると、無期限で5台までの「Free Personal Token」というトークンが発行されているはずです。このトークンを控えておいてください。
proコマンドの使い方
Ubuntu Pro関連の操作は、「pro」コマンドから行います。「attach」サブコマンドの引数に、先ほど控えたトークンを指定して実行してください。これでこのホストが、Ubuntu Proサポートに接続されます。
$ sudo pro attach (トークン)
上記のサービスの状態は、「pro status」コマンドでも確認することができます。
また「pro security-status」サブコマンドでは、利用可能なすべてのESMを含む、システム内のパッケージのセキュリティ更新を表示します。
$ pro security-status 1808 packages installed: 1725 packages from Ubuntu Main/Restricted repository 83 packages from Ubuntu Universe/Multiverse repository To get more information about the packages, run pro security-status --help for a list of available options. This machine is attached to an Ubuntu Pro subscription. Main/Restricted packages are receiving security updates from Ubuntu Pro with 'esm-infra' enabled until 2032. Universe/Multiverse packages are receiving security updates from Ubuntu Pro with 'esm-apps' enabled until 2032.
より詳細な使い方は、proコマンドのマニュアルを参照してください。
サブスクリプションのデタッチ
Ubuntu Proのサブスクリプションは、ホスト1台ごとに料金がかかりますし、個人向けサブスクリプションであっても5台の制限があります。そのため、不要になったホストからはサブスクリプションをデタッチしておきましょう。これは「pro detach」コマンドで行えます。
$ sudo pro detach
このコマンドは該当のホスト上で実行する必要があるため、よくあるのが「デタッチを忘れたままサーバーを初期化してしまい、デタッチ不能になった」というパターンです。
ですがこの場合も、特に何もする必要はありません。そもそもUbuntu Proでは、登録されたホストのリストなどをサーバー側で管理しているわけではありません。サブスクリプションのページに表示されている「Active machines」も、「24時間以内に該当のトークンでUbuntu Proのサービスに接続してきたホストの数」をカウントしているだけに過ぎず、この数が契約サブスクリプション数を越えなければよいだけなのです1。そのため、もしもデタッチを忘れて初期化してしまったサーバーがあっても、24時間放置すれば、アタッチしたサブスクリプションは自動的に解放されると考えて差し支えありません。
自宅やVPSなどでUbuntuデスクトップ/サーバーを運用している方は、ぜひ本記事を参考にUbuntu Proを試してみてください。
- この仕様ため1台のホストであっても、アタッチとデタッチを繰り返すと、Active machinesのカウントは一時的に増えていきます。↩