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「ー(長音)」省略問題!?今は「サーバ」じゃなくて「サーバー」が基本だよ、というお話

皆さんこんにちは!富士通クラウドダイレクトの中の人Tです。地元の夏祭りのフライヤ作成のために最近プリンタを新調したのですが、メーカの一般ユーザ向けページを訪問して自分のコンピュータに合ったドライバをダウンロードしました。ブラウザからポチポチするだけなので簡単でいいですね。

さて、この文章を見て、無理やりな文章構成以外に違和感を感じなかった人はなかなかのベテランエンジニアな方ではないかと思います。そうです、カタカナ単語の最後の「ー(長音)」が省略されているのです。

テックブログといえばカタカナ名称や用語が乱舞するのがあたりまえの環境。そんな中「ー(長音)」を付けるのか、付けないのか扱いに困るシーンもあるのではないかと思います。

今回は、そんな長音、結論としては「省略しない」が基本的なルールとして現在認知されていますが、その変遷を簡単に話題にしたいと思います。

この「ー(長音)」の取り扱いについてです。

いつから省略しなくなったの???

すこし昔(30年ぐらい前まで)は省略するのが普通でした。それはJIS(日本工業規格)の「規格票の様式及び作成方法(規格番号:JISZ8301)」に「2音の用語は長音符号を付け、3音以上の用語の場合は長音符号を省く」ことが原則と規定されていたからです。JIS規格に書いてあったらみんなそうするよね。

他にも「1バイトでも容量を節約したかった時代の苦労が」とか「『ー』がマイナスやハイフンにみえる」とかの諸説が語られていました。

しかし、1991年に内閣告示「外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)」で、「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころ」として通知された内容には……

長音は、原則として長音符合「ー」を用いて書く

と記載されることに。しかし同時に「慣用に応じて省略してもよい」とされる単語の例として「コンピュータ」が記載されていたりもして、これが恐らく騒動のタネの一つだったんじゃないかと思ったりもしますが。その後も「長音を付ける」流れは加速します。

製品やサービスの使用説明を扱う専門家の団体である一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会( 以下JTCA)が外来語(カタカナ)表記ガイドラインにおいて「語尾の長音表記」を調査・規定しました。2004年に初版、現在2015年制定の第3版が公開されています。

そこには、長音の有無で別製品と取られるという誤解を与える可能性があったり、読み上げソフトで誤読が発生する(「メモリ(メモリー)」を「目盛り」、「タイマ(タイマー)」を「大麻」など)など、アクセシビリティについての問題があることを指摘。「長音」がもたらす問題と、「長音付き」に統一することによるメリットを調査したうえで、「長音を付ける」方向でのガイドラインが規定されています。

(中には専門家が慣れ親しんだ「メモリ」という表記も、一般ユーザーには「メモリー」のほうが圧倒的に違和感がない、という調査結果があったとか…。)

さらに追い打ちをかけたのは、2008年にMicrosoftが自社製品の日本語表記ルールを変更。これは前述の「内閣告示第二号」を元にした内容となっており、「ブラウザ」は「ブラウザー」になり「ドライバ」は「ドライバー」になりました。

Microsoftさんがそうするなら……と、このあたりから国内各社が、一般ユーザー向け媒体において長音を省略しなくなった、そうです。

そして、戦いに終止符を打つかのごとく、JISZ8301の記述も2019年には

「外来語の表記は,主として“外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)”による。」

となり、ついに長音の省略についての言及が無くなりました。(「Z 8301:2019 附属書H (規定)文章の書き方並びに用字,用語,記述符号及び数字」

それなりに昔からコンピューターを使っていたので、結構慣れ親しんでいた気がします。

長音以外で困らせてくる単語もいるよね

長音は分かったんだけど、でも他にも厄介な単語あるよね!?はい、その通りです。自分は「ファイアウォール」と「ファイヤーウォール」が許せません。「ア」なのか「ヤー」なのか、ヤー。

これについては、前述のJTCAのガイドラインに、別箇所の説明用ではあるが「ファイアウォール」の表示があること、またGoogle検索においても「ファイアウォール」の検索結果が3倍ぐらい多い、ということから、世間でより一般的である「ファイアウォール」表記を使用するのがよいのではないかと思います。また、「~ア」か「~ヤ」どちらか迷う単語についてもJTCAのガイドラインが参考にできます。

他にも、漢字を開く(平仮名で書くこと)場合はいつ??というのが気になりどころとしてあると思います。一般的には……

  1. 常用漢字に含まれないものは原則ひらく
  2. 下記のようなケースはひらくほうが一般的
    1. 「副詞」例:更に→さらに/極めて→きわめて/既に→すでに
    2. 「接続詞」 例:及び→および/但し→ただし/又は→または
    3. 「形式名詞」例:~する事に→~することに/~する度に→~するたびに/~の通り→~のとおり
    4. 「補助動詞」 例:~して見た→~してみた/~して頂く→~していただく
    5. 「副助詞」 例:等→など/迄→まで/位→くらい

といったものがあります。この辺りの表現は、詳しく書かれたバイブル的存在の「記者ハンドブック」というものが共同通信社さんから出版されていますので、ライティング力をさらに磨きたい、という方は参考にされてはいかがでしょうか。

こんなに分厚くは無いです。

気を付けたい「慣例」

あれ、でも「サーバ」とか「ドライバ」って今も使うよね?この前先輩からそう書けって言われたし。。というお話もあるかと思います。

いくら前述の例やルールがあるとはいえ、例えば社内の規定や慣例であったり、所属するコミュニティのルールを今からガッツリ変えてやろう!というのは少し待ったほうがいいかもしれません。

内閣告示第二号の前書きには……

  1. この『外来語の表記』は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころを示すものである。
  2. この『外来語の表記』は、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
  3. この『外来語の表記』は、固有名詞など(例えば、人名、会社名、商品名等)でこれによりがたいものには及ぼさない。
  4. この『外来語の表記』は、過去に行われた様々な表記(「付」参照)を否定しようとするものではない。

といった記述もあります。

社内資料や仕様書などは、既存のルールとユーザビリティのバランスを意識して、余計な波風が立たない快適なライティング活動に邁進いただければと思います。

まとめ

社内ルールや専門分野としての慣例がある場合を除いて、特に一般ユーザー向けの文章においては「長音」は省略しないのが今の世のユーザビリティやコミュニケーションに沿っていると感じます。

文章のみでやり取りする状況が爆増している今だからこそ、改めて単語単位から「誰に伝えるのか」を気にしていきたいと思いました。